脚本演出家の馬原颯貴です。
いつもは「あとがき」としてブログを書いておりましたが、たまには公演の前にお話ししたいこともありまして、こうして筆をとりました。
少し長いですが、ご覧いただけると嬉しく思います。
今回、「群読×合唱」と題しまして、「混声合唱とピアノのための さよなら、ロレンス」を「再構成」するとお伝えしておりますが、果たしてその概要をご理解いただけている方がどれほどいらっしゃるでしょうか。
この世にない形式のものを作り上げる、というのはとても骨の折れることで、産みの苦しみというのは計り知れません。
しかし、それはお客様にとっても同じことと思います。
「芝居」を見にいくのか、「音楽」を聴きにいくのか、はたまた例えば「ミュージカル」を見にいくというつもりなのか。
今回はそのあたりを少しばかりご解説させていただきたいと思っております。
普段お芝居を見られる方も、合唱を聞きに行かれる方も、そしてもちろん、今までどちらも見たこと、聞いたことがない方も。
門扉を広く開けておりますので、お気軽にお越しください。
まず、「群読」について説明させていただきましょう。
とはいえ今は時代が時代ですので、「群読 とは」で検索していただければ参考になる動画が多々見られることと思います。
辞書には、
「文章や詩を大勢が分担しながら朗読すること」
との記載がございます。その通りです。
小学校の卒業式で、
一人「みんなで行った、修学旅行!」
全員「「「修学旅行」」」
とやった記憶がある方もおられると思いますが、アレです。
チームに分けたり、二人で読んだり、そういった量の変化、色の変化で、文章を表現していくわけです。
それを、詩でやります。
簡単に言ってしまえばそれだけのことです。
さて、次は「合唱」です。
これは私が中学から部活に入っていて、高校を卒業しても尚、社会人合唱団に入って続けるほど奥が深いものなのですが……おっと、この話は長くなるので割愛。
皆さんも中学生時代に校内の合唱コンクールに参加されたり(もしくは”させられ”たり)したかと思います。
一つの歌を、みんなで歌う、アレです。
パートに分かれたり、全員で同じメロディを(ユニゾンといいます)歌ったり、たまには一人でソロを歌ったり。
あれ、これってなんだか、群読と似てませんか?
「メロディがついている群読」が、合唱なんじゃないかと、私は思います。
ここで補足として、「詩」と「詞」の違いについても触れておきましょうか。
「詩」は、「ポエム」とも言います。皆さんご存知の「詩」です。
それに対して、「詞」は「リリック」。これは、メロディが先にあるもの、もしくはメロディを当てるために書かれたものになります。
つまり、音楽になることが前提なのか、言葉ありきのものなのか。
今回は「詞」ではなく「詩」を、群読と合唱という二つの手法で表現しようという試みになります。
それが第一部、「混声合唱組曲 四つのディベロップメント 猫のボブ/シシリアンブルー/冬の金木犀/For the good times」です。
この組曲の誕生はそもそも特殊でして、通常一人の作曲家が組曲というものと作り上げるのですが、この組曲は「連作組曲」という形式をとっています。おそらく初めての試みです。
一人目の作曲家が一曲目の詩を選び、曲を書き、発表。その曲を受けて、二人目の作曲家が二曲目の詩を選び、曲を書き……。
このようにして四人の作曲家による連作組曲が出来上がりました。
その「連作」という行為をするにあたり、必ず「前の曲、詩を受けて次の曲が作られる」ので、必然そこには、テーマや物語が発生するはずです。今回の表現方法にぴったりでした。
さて、ここで第二部「さよなら、ロレンス」です。
この作品は合唱界でも異色の作品。作曲家でもあり社会学者である森山至貴先生の手により、詩人・四元康祐さんの「受付」「意志決定」「労務管理」「市場崩壊」が合唱曲になりました。
このタイトルを見てわかる通り(さっぱりわかりませんが)、普通の詩ではありません。そして曲も全然普通じゃありません。「市場崩壊」という言葉が、合唱曲のタイトルになるだなんて、普通じゃあありません。
そして更に普通じゃないことに、一曲目の「受付」は2012年度全日本合唱コンクールの課題曲の一つ(G4)にもなったのです。
「会議は最上階で開かれておりますが」という第一声から始まる、企業という名の異空間を表現したこの曲は、全国の合唱ファンを驚かせたことでしょう。
そんな曲が、私は大好きです。ひねくれ者なので。
ちょうど高校を卒業し、コンクールに参加しない合唱団に所属した矢先、母校が課題曲としてこの曲を歌っていました。
高校生になんて曲を歌わせるんだ! と思いましたが、それからすっかりこの「さよなら、ロレンス」の虜になってしまったのです。
そしてこの組曲を作曲家自身のピアノで演奏しよう、という試みがあったのが、ちょうど二年前。2016年12月11日のことです。
奇しくもその日は私の誕生日。そんな日に、好きな曲を歌えるだなんて運命に違いない! と思い、その企画に参加を決意。
「Lux Voluntatis」という企画合唱団として、「小さな夜の音楽会 #1」で「さよなら、ロレンス」を演奏しました。
……昔話が長くなりましたね。
つまりそんな数奇な企画をしないと誰も(?)歌おうとしない怪作な訳です。
群読×合唱という試みを思いついて、合唱指揮者の三好さんと相談を重ねた結果、恐ろしいアイディアが生まれました。
「さよなら、ロレンス」を、順序や構成をバラバラにして、群読と一緒にやろう。と。
その際、ルールを決めました。
・新しい音を追加しない
・歌詞のボカリーゼ化は許可。
・テンポの変動は許可。
基本的にはこの三つしかしておりません。
しかし、逆に言えばこの三つさえ守っていれば、どんなこともして良いのです。
その結果、私と森山先生とで再構成されたのが、「混声合唱とピアノ、群読のための さよなら、ロレンス」。
生まれ変わった楽譜を見た合唱団員からは、「どうしてこうなった」「もともと難しい曲を更に難しくしてどうすんだ」との嬉しい悲鳴が殺到しました。
でも、知るか! ここまでやらないでどうすんだ! なぜって、これは絶対面白いから。
原曲のフレーズをつなぎ合わせ、ピアノがフレーズをランダムに演奏し、合唱が群読と一緒に言葉を喋り、再構成された「さよなら、ロレンス」。
元の詩をバラバラにして、再構成することによって、新しい物語が生まれました。
「意志決定」の一文を引用すると、「バラバラにしてさらけ出すんだ 眩しい陽の下に」。
板橋区立文化会館小ホールにて、さらけ出します。
芸術作品としての合唱を、群読を、もっと広く認知させたいという私の思いが詰まった作品です。
どうかその目と耳で感じ取ってください。
12月12日 27歳になりたての 馬原颯貴