銀河のおとぎ話を終えて。

最終更新: 7時間前

888企劃の馬原颯貴です。

888企劃舞台作品THIRD READING LIVE 銀河のおとぎ話 が無事終了いたしました。

これもひとえに、ご来場いただきました皆様方、僕の演出についてきてくださった16人のキャスト達、制作部として尽力してくれた小野田さん、田口さん、みんなのお陰です。ありがとうございました。

さて、今回こうして筆を（タイピングを？）取ったのは、銀河のおとぎ話を書き、そしてリーディングライブとして舞台公演を行った後の、反省兼解説兼あとがきを書きたかったという気持ちがあったからです。

とりあえず思いついたことをそのまま書きます。お客様からしたら「知らない方が良かった！」と思う部分もあるかも知れませんが、どうぞご容赦を。

とりあえず、脚本としてこの作品を書き上げたまでの経緯をお話ししましょうか。

もう8年ほど前になりますか。

当時、愛知県にある中部大学の、文芸研究会というサークルに入っておりました。

一年で中退して芝居を始めてもなお、サークルには顔を出し続けていたんですけれど。

そのサークルは、毎週「討論会」という会合を行なっておりまして、みんなが書いた作品を晒しあげ、ボロクソに批評し合う(もちろん正当な理由で！)サークルでした。

当時、趣味全開の、今思うと恥ずかしい作品ばかり出していた自分でしたが、「たまには綺麗な作品を書いてみたらどうだろう」と思い、今の「流星職人ベルヌーイと橙色の迷子」の原型を書き始めました。

物書き的な事情を話すと、最初は言葉遣いがですます調じゃなかったり、やったらめったら細かい描写をしてました。ちなみに、当時は「流星職人ベルヌーイ」というタイトルでした。先日、ふとプロットもできていないのに最初だけ書き出したときの「ベルヌーイ」の初稿が出てきたので載せておきます。このまま眠ってしまうのも、なんだか悲しいので。

流星職人ベルヌーイ

「プラーナ」とか名付けちゃってるあたりが、ライトノベルっぽさを感じますね。若い。

そして「流星職人ベルヌーイと迷子の星」というタイトルに、そのあと、「流星」と「星」は表記の揺らぎが……と思って、「橙色の迷子」というタイトルになりましたけど。

関係ないけど迷子って子供限定なんですかね。大人は迷子にならないのかしら。星が迷うだとそのまま惑星っぽい。

あ、作中の「惑星」という用語は、実際の惑星とは意味合いが変わっていることは、ここで伝えておきましょう。本当の定義は、「恒星の周りを一定周期で周回する天体」です。この銀河に恒星ってあるんでしょうか。

文芸研究会として作品を出すと、学園祭の際に冊子としてお配りするんですが、その時にあとがきを書きました。これも当時のものを掲載します。

　あとがき。　

　人は何のために生まれて来たのかという質問に対して、僕は「それを知るために生まれてきた」と捻くれて応える人間なのですが、そもそも正直に言ってしまえば、人に何か目的があって生まれてきたとは思えません。僕たちはただ単にこの世に産み落とされてしまっただけで、生まれてきたのは目的ではなく結果なのです。ではその結果がなにをするのかという話なのですが、それは当然誰に分かる事でもありません。我々には個性があり、各々に可能性が秘められているのです。

　そういうわけで、「流星職人ベルヌーイと迷子の星」でした。流れ星が願いを叶えるって、誰が最初に言い出したんでしょうね。不思議です。

あー恥ずかしい笑

月チームの千穐楽公演でちょっとお話ししたんですが、最後の一文が僕の中では引っかかっていたというか、メインテーマでもあったわけです。

流れ星を見ると、人は自分の願いを唱えます。でも、あの星が、きっと、だれかの願いを叶えているんだって思うと、なんだか優しい気分になりませんか？ だから流れる星を見るたびに、「ああ、きっとあの星は、ベルヌーイくんがあの灰色の惑星で、橙色のユリの群れのラグランジュと一緒に流していて、きっとベルヌーイもこの星を眺めているんだろうな」だなんて考えてもらえたら、なんだか優しい気持ちになれると思うんです。

そんなわけで、ベルヌーイの話は意外にも好評でした。いい気になった僕は続編を書いた訳です。

それが「配達屋ヤーノシュとシュレディンガーの手紙」になりました。

当時のタイトルはまんま「〜シュレディンガーの猫」だったかな……？ あまり記憶にありませんが。

もちろんというか、御察しの通りといいますか、この話は有名な「シュレディンガーの猫」をモチーフにしております。

ざっと、あくまで簡単に説明すると、「箱の中に死にかけの猫を入れたら、その箱を開けて観測するまで、中の猫が生きているか死んでいるかはわからない」って話です。

もっとちゃんと説明しちゃうと、アルファ粒子が〜とか、毒ガスが〜とか、重なりあいが〜って話になるんですけど、割愛。科学者には怒られそう。

ま、結局のところは「観測した瞬間にその状態が確定する」ってところが肝なんです。

今回の話は、その手紙の中身を観測した時に、「観測者側がどういう反応をするのか」が、（ヤーノシュが）観測した結果確定する。そしてさらにその観測者（猫）をヤーノシュが観測することによって、シュレディンガーという博士の一生をヤーノシュが観測できる……という、観測に次ぐ観測のお話なんです。やっぱりこれは、シュレディンガーの実験だったわけです。

そんなお話に、「色の三原色」と「光の三原色」を掛け合わせた結果できたのが、「配達屋ヤーノシュとシュレディンガーの手紙」でした。

星烏も、ガラスのペガサスも、ベルヌーイの頃から出ていたキャラクターなのに最後にしっくりハマってくれて、なんだか不思議な気持ちだったことをいまでも覚えています。ベルヌーイを書いた時はこんな話を書くなんて想定していませんでしたから。

「見えないものを美しく思う」ことのおかしさというか素晴らしさを考えてました。小説にしてもそうです。映像や写真なら、そりゃあ美しいものを見たら美しいと思うじゃないですか。でも、文章を読んで、「美しい」って思うのって、それは想像した絵が美しかったから、美しいと思ったわけです。

でもその想像って、皆さんの中にあったものですよね。

思考のリサイクルみたいなものなんですけど。それって、素敵なことだなあと思います。

次に、登場人物についてお話ししましょうか。

この銀河の住人や建物には、実在する数学者や科学者の名前が使われています。

曲面上の幾何学を語る「非ユークリッド幾何学」の創設者が、ニコライ・ロバチェフスキーとボーヤイ・ヤーノシュでした。そしてヤーノシュの父の名前が、ボーヤイ・ファルカシュ です。

ラグランジュという名前は、ラグランジュ点と呼ばれる「三天体が周回する際に必ず通る五つのポイント」から……まあつまりは、常にぐるぐる動いてるわけです。わー、それっぽい。

ベルヌーイ曲線という言葉は、聞いたことがある人がいるかもしれません。巻貝などの螺旋曲線です。流星が飛んでいく軌道がそうだといいなあ。

メルセンヌ数という数字があります。それは「2のn乗-1」……つまり1,3,7,15,31,63……まあ、どんどん大きくなる数な訳です。そして実は、くじらタクシーのメルセンヌは一人乗り専用なんですね。一人が乗ることによって、「2のn乗」が完成する。これはとても考えられた名前です（自画自賛）。

アイザック・ニュートンを知らない人はまさかいないでしょうね。表記は「Isaac」 なので、ヤーノシュは一度「イサーク」と誤読しています。

そうして各々の名前は名付けられました。考えられたようで、意外にあんまり考えてなかったかも。

さて、そんな思惑で完成した二編の物語なのですが、リーディングライブとして公演するまでにいろんな道のりがありました。ここからは演出的なことを話すパートになるのかな？

まず、「ベルヌーイ」のビジュアルノベル化。

この話は、友人のamが美麗なイラストを書いてくれました。絵本のようなこの話を、実際に絵本にしてみようとしました。美しいイラストに彩られた、鮮やかなものになりました。

そして「ヤーノシュ」のオーディオブック化。

広義のオーディオブックとは少し違ったものですが、声優仲間を集め、ボイスドラマの形式でお送りしました。

そういった経緯を経て、「この話は僕の中できちんと生きている」と思うようになりました。

どちらも無くしては、今回の公演は成功に至りませんでした。

この次はどんな形でお送りできるのか。非常に楽しみでもあります。

でもしばらくは舞台かなあ。

両方とも、舞台でやるにはあまりにも問題が多すぎますし。

さて、リーディングライブです。

その問題点というものが、リーディングライブになると全て解決するのです。しかも、良い効果も得られる。一石二鳥です。

昨今、朗読劇の公演というものがあまりにも溢れてしまっているように感じています。

ただそこに立って、台本を持って読むだけではつまらない。じゃあ、動きを実際にやってみようか──え、それって一体、何事？ 台本持って、動いて、ものを渡して、歩いて……それ、舞台でやればいいじゃない。

なぜ舞台でやらないか？ それは、稽古時間を長く取れなかったり、セリフを覚える時間がなかったり……結局は作る側の都合なんです。それを見て、違和感を覚えるお客様のことは考えていないんじゃないですか、と。

僕はそうはなりたくないと考えた結果が、この話をリーディングライブにすることでした。

世にはびこる朗読劇へのアンチテーゼ。朗読劇なら、「見せない」でやろうと。

役者は、誰が何役なのかのアイコンとしてのシルエットを保ったまま、ただ「声優」としての仕事をするのみ。観客が違和感を覚えない程度に、（例えばハットをかぶっているのに「ハットを忘れた」というのはおかしいですよね）そのアイコンを着脱する。それ以外の行動は、キャラクターがするのであって、声優がするものではない。声優は、それを想像できるような演技を、声のみで行います。当然、その声を出すために付随する表情は大変豊かです。それは、キャラクターと役者を結びつける役割にもなります。その部分は残さなければいけません。

見えないからこそ美しい。

観客は役者を見ているだけで、その奥にある広大な宇宙を、きらめく銀河を、無数の星の輝きを、見つけることができるのです。

そしてそれは美しい光景であるはずです。

だって、みなさんの想像力って、きっと美しいから。

さて、それでは。

五月の舞台の準備を進めなければなりません。

また劇場で、お会いいたしましょう。

3月19日　天の川銀河の外れ、青い広大な惑星にて　馬原颯貴